奇妙な夢を見た。
 全身が痛いようなむず痒いような中で眠っている。治りかけのかさぶたが妙に気になるような、筋肉痛がふとした瞬間に痛みを訴えるような、眠いのに眠っていられない感覚がずっとある。これから一気に痛みが来る、という予兆なようなものを感じながらも瞼が開かない。どこか遠くで声が聞こえる。ナンバーツーヒーローの娘――使える駒――轟――双子の姉――ちゃん――しかし彼女は一般人です、今はまだ――轟――――覚醒が必要だ――生命への冒涜――先生が許すはずがない――――姉さん――轟。

 轟。

「…………」

 灰色に近い白の視界が、徐々に像を結んでいく。長い蛍光灯、黒い影をつくる凹凸のある天井、室内に垂れ下がっているカーテン、――覗き込んでいる、心操くん。

「……心操くん……」
「……なんだよ、その顔」

 そういう心操くんこそ、拗ねたような顔をしている。
 身体を起こし、いつもより重い頭を支える。熱でもあるのだろうかと一瞬思ったけれど触れた額は特に熱くはない。気のせい、か。

(……変な夢を見た)
「轟」
「ん、なに?」
「……覚えてないのか」
「え」

 何かあったっけ。首を傾げた私に、心操くんは怒るわけでもなく顔を伏せた。それがなんだか傷付いているように見えて、心操くん、と意味もなく声をかける。ここは――最近入り浸っているからすぐわかる、雄英の保健室だ。なんだっけ、なにかあったっけ。私なんでここに、いつ保健室に来たんだっけ。見たところ放課後って感じでもないけど、最近は夕方までが長いからよくわからない。

「お前、教室来なかったんだよ」
「…… え」
「教室来なくて、保健室にもいなくて、携帯に連絡しても返事が無くて。……昼休みになって、図書館で寝てんのが見つかった」
「……あ…… ああー……」

 そういえば朝から図書館に行った覚えがある。人があまりいないスペースを探して立ち入り禁止書庫の一歩手前くらいのところで床に座り込んで本を手にとって、……そこから先が記憶がない。
 え、マジで、大丈夫なのか私。いくら眠いといっても限度ってものがないか。一抹の不安に襲われたものの、身体の不調は特にない。寝すぎで頭がぼんやりしているのと、まだ眠いだけだ。どこか痛いとか重いとか、特にない。夢の中では動かそうにも動かなかった身体が、今は不自由なく動く。

「……えっと、あの、ごめん」
「……なにがだよ」
「心配、かけて……?」

 別に心配なんかしてない、とか言われたらどうしようかな。寝て起きて体調は悪くないのでけろっとしてしまっている私と対照的に、心操くんは何日も眠れていない人のような形相をしていた。もともとの目元の隈も相まって、若干怖い。

(……けっこう怒らせた覚えがあるしな……そろそろマジのガチで怒られるか縁切りされるのでは……? ていうかおばあちゃん先生どこいったの、帰ってきて今すぐ来て)
「お前は、さあ」
「はい」
「お前は――なんか、怖いとか、変だとか、思わねえの。毎日毎日こんな寝て、気絶みたいに寝て、叩いてもゆすっても運ばれても起きなくて」
(叩かれたりしてたの私……?)
「……なんで、おまえ」

 睨むように見据えて――怒りに染まっていた様子の、その顔が、ぐしゃっと歪む。
 一転して泣き出しそうなその表情が、幼い子供のようだった。

「そんなに、自分のことに 興味、ねえの」
「…………」

 そんな。そんな、つもりは。反論しようと開いた口が、何も言えず縮んでしまう。
 そんなつもりはない。自分自身のことに興味がないなんて、いや、興味があるというのも変な話だけれど、別に自分のことに無頓着ってことはない。身だしなみはきちんとしているはずだし、三食きっちり食べているし、楽しいことが好きだし漫画や小説を読んだりゲームをしたりするのだって好きだ、身体を動かして遊ぶことだって好きだ。ちょっと気になる女の子もいる、内緒だけどお酒を楽しむことだってできる、私は人生を謳歌している。
 ――自暴自棄、以前の問題に見えるよ。
 つい先日、言われたことが蘇る。大丈夫かどうかなんて自分でもわからない、だけど別に問題ない。大丈夫じゃなくたって、私は。……大丈夫じゃなくたって、いいんだ、と、考えていることにようやく思い至った。

「心操くん、こそ」
「……?」
「心操くんこそ、私なんかに構ってる場合じゃないでしょ。ヒーロー科に行くんでしょ。ヒーローに、なるんでしょ。こんな無個性のクソモブの薄情者に、構ってる場合じゃ――」

 ない、でしょ。
 ……最後まで言い切ることができなかったのは、心操くんのその形相に気圧されたのもある。自分で、これは言っちゃいけないことだったとわかったのもある。
 言っちゃいけないことだった。反射的に口をついて出た、隠しようもない私の本音は、心から気遣ってくれているような人に言っていいようなものではなかったのだ。

「『轟』」
「……」
「『返事しろよ』」
「………… はい」
「『立て。靴履いて、鞄持って、まっすぐ帰れ。家で寝ろ。家までは絶対寝るな』」
「……」

 意識がものすごくクリアな状態のまま、その言葉に従う。洗脳こんな感じなのか……自覚アリでかかるパターンもあるのね知らなかった……。体育祭の時の緑谷くんとか、意識が無くちゃ抵抗もできないだろうしこんな感じだったのかな。そうするとやっぱり心操くんの調整具合?

「轟」

 洗脳にかかったままの身体では、その声に反応することはできなかった。たぶん彼もそれをわかってはいるんだろう、保健室を出て歩く私の後についてくる。今がどういうタイミングなのか知らないが、廊下には誰もいない。授業中なんだろうか。

「俺、すげえ怒ってるから」
(それはわかる)
「すげえ怒っててムカついててお前のことぶん殴りたいけど、怒鳴り散らしたいけど、でも、本当にしたいことはそういうことじゃねえから」
(……?)
「頭、冷やして、ちゃんと整理して――そんで、お前にちゃんと怒るつもりでいるから。逃げんなよ」
(…………)

 意思とは関係なく歩みを進め、校門を出て振り返ることもなく進む。途中ちらりと見えた時計で確認できたけれど、やっぱり午後の授業の最中だった。心操くんは授業、出なくて大丈夫だったんだろうか。彼の将来の邪魔になったんじゃないだろうか。私や、私の無個性や、私の『自暴自棄以前の問題』は――彼の足を引っ張っているんじゃないだろうか。単純な疑問と、つい先ほど見たばかりの形相。すげえ怒ってるから。改めて言われなくたって、そういう顔をしていたよ、心操くん。
 ……それでも。
 それでも、彼はまだ、私と友達をやるつもりでいるのだ。

(……)

 損な性質だ、と思う。可哀想だと思う。気の毒に。私なんかと会ったから。私なんかにその優しさを使うから。この程度のハンデなんともないなんて、言える立場じゃないでしょう。スタートから遅れてる立場でしょう。ヒーロー科脱落、体育祭でそれなりに活躍は見せたものの未だに普通科、鍛錬と同じように遅れも日々積み重なっていく――私が抱くそれらの感想を、私以上に抱いているはずなんだ。いらないものは、捨てればいいのに。……『いらないもの』じゃないんだと、全身全霊で、伝えてくる。

(可哀想だ、馬鹿だ、見る目がない、私なんかに、…………困るよ……)

 私は心操くんを、ほとんど諦めていたっていうのに。期間限定の友達だという前提で付き合って来たっていうのに。そんな、屈託のない友情を向けられたりしたら。上っ面でも平等さでもない優しさを向けられたりしたら、さあ。どうしていいのか、わかんないだろ。私はそれに足る人間じゃないんだよ。そろそろわかってるはずだろう、知っているはずだろう。決して頭の悪い子じゃないんだから。薄々、色々、わかっちゃっているはずだろう。
 午後の生温い風が頬を撫でる。目は虚ろだけれどまっすぐに歩く制服姿の女子高生は、具合が悪くて早退した生徒にでも見えるのだろうか、誰かに声をかけられるようなことはなかった。学校でもたぶん、心操くんが先生に話しておいてくれているのだろう。大事な個性を、人を休ませるのに使っちゃうなんて、ばかだなあ。ふ、と息を吐いて――唐突に思い出した。寒い日に、炎に手をかざしたことを。触れようとしたわけでもないのに、その手をひっぱたかれたことを。

 触るな、不良品。

 あれはいつのことだっただろう。そう呼ばれていたということは、四歳以後というのは確実だけれど――部屋に戻った時、焦凍は母のてのひらを額に載せていたから、母が入院する前のことだ。冬だった。個性の暴走と、どう見てもオーバーワークの結果だった。高熱と寒気を交互に繰り返し、時に布団を凍らせたり燃やしたりしながら、ぐすぐすと泣いていた弟。あついよう、さむいよう。いたい、あたまがいたい、ぜんぶいたい。まだふくふくと幼い頬に伝う涙が、流れる端から凍り蒸発していく。心配そうに焦凍の隣に座り続けていた母が、振り返って私に気付き、そっと唇に指を当てた。シンプルな『静かに』のジェスチャーだ。おかあさん、おかあさん。泣き声に向き直った母は再び焦凍の額に手を乗せた。
 炎も氷も、焦凍のためにあるものだ。
 どんな個性も、価値あるもののためにあるのだ。

 ぶん回した鞄が地面にたたきつけられてバァンと派手な音を立てた。

「…………」

 反省しよう。
 考えを改めよう。父親と同じ考え方をしていた。マジで反省した。心操くんごめん。過去の云々を理由に君の心情や優しさや誠意を見えていなかった反省しますごめんなさい。あとなんかどさくさ紛れで洗脳解けた。怒りの瞬発力すげえな。あと物に当たるのも良くないごめん。本当に……本当に私は……いい年こいてどこまで馬鹿だ……。いい年っつっても女子高生なわけだが前世持ちなわけで、合算えーといくつだ、まあいいや! どっちにしろリアル女子高生にしたってアウトだわ! 一緒にすんなっつうのなあ!
 たった今しがた、自分の手で地面にたたきつけた鞄を持ち上げて大きく息を吐く。
 生地の縛りから逃れられる人間はいない。芯、軸、ルーツ、オリジン、三つ子の魂。それを想って、落ち込んでしまうこともある。ただまあそれはそれとして、今後の行く先を決めるのは自分だ。父親と同じ考え方を持っているからと言って、いつまでもそれをトレースしなきゃならないわけじゃない。変化には、体力が要るけれど。私は私の望むように変わることができる。

(――と、わかってても、疲れちゃうことはあるよなぁ……)

 またもや眠くてグラグラしてくる。いやいや家までは絶対寝るなって言われたしせめて帰らなければ……これを見越してのあの洗脳だったらすげえな心操くん、個性洗脳じゃなくて先読みとかじゃないのか実は。どうにかこうにか歩を進めながら、ふと、どうして眠いのだろうといまさら思った。ここのところの強烈な眠気を、ただ寝不足だからだとか、現実逃避の極まったものだとか、突発的なストレスの云々だと思っていたわけだけれど――そうだとすれば、ひとりでいる今、眠いのはおかしいだろう。学校でもしばらく眠いままなのは。

「おや、こんな時間にどうなさいました」
「…… え、あれ」

 その声にはっとして、周囲を見回す。いつのまにか家とは別方向、しばらく前に訪れたあのバーの傍に立っていた。
 え、あれ、なんで。まっすぐ帰るつもりだったのに。混乱が顔に出ていたのか、煙のような個性の人――見違えるはずもないバーテンダーが不思議そうに首を傾げる。日の光の下で見ると、なんというか、真昼の月のような人だ。

「その制服……雄英の生徒さんですね」
「、ええ、まあ……」
「……顔色が優れないようですね。ホットミルクか何か……ゆず茶の方がいいですかね、お出ししましょうか」
「え、いえ、そんな」
「お気になさらず。死柄木もあなたとお話したかったようですし」
「いえ、あの、」

 大丈夫ですから――と、後ずさった先に、地面が、ない。
 後頭部を強く打ち付ける感触とともに、目の前が真っ暗になった。


 ――覚醒が必要だ。
 しわがれた声が言う。見込みがある、たいへん使える、期待できる、ただ、だが、しかし。まだ足りない。希望も絶望も君には足りない。もっと絶望しなければ、もっと落胆しなければ、そして希望を抱かなくてはいけない。自分こそが革命を起こすのだと。そう、君こそが世界を変えるのだ。君にはその力がある。仲間も、ほら、ここに。できるね。できるはずだ。大丈夫。
 ――そのための、ちからを、個性を、君にあげよう。

 突き飛ばした布団が、そこに座っていた誰かに被さった。

「…………、」

 もぞ、と動いた影が、布団を引っぺがしてその下から『起きたのか』と囁く。紅白頭が見えた瞬間それを誰かなんてわかっていたのに、わざわざ名前を呼ばなきゃならなかった。焦凍。寝起きと思えないはっきりした声が出る。凝視と言っていい両目、たぶん穏やかな表情はしていないだろうに、焦凍は幼く愛らしいものでも見たみたいにその顔に微笑を浮かべた。

「早退したって聞いて、……大丈夫か」
「……ああ……うん……」

 早退。そうだ、早退した。学校で寝たらしくてそのまま保健室に運ばれたらしくて、正直そのへんは覚えていないけれど、起きて心操くんに怒られて、家までまっすぐ帰るよう洗脳をかけられて――それから……

(……夢? か?)

 普通に考えて一回お店に入っただけ、ウイスキーを一杯注文しただけの客を覚えていてわざわざ追ってきたとは考えにくい。いくらドラッグを蒔いたとしてもだ、そっち目当てならむしろ買いたがって再び来店するのを待つべきだ。彼が私を追う理由もメリットもない、……私が、エンデヴァーの娘と知られていなければだが。
 エンデヴァーの娘、無個性。おそらく後ろ暗い部分がある。使いようは幾らでもある。

(……油断したか……いや、ドラッグでもお父さん絡みでもない可能性は……どうだろう……)

 そもそも本当にただの夢の可能性はどうだ。……エンデヴァーの娘を捕まえたなら、わざわざ放す理由はないしな。私に何か仕込んでいるならともかく、そんな感じもしない……し、何か仕込んだところでベースが私じゃどうしようもない。それこそ爆弾でも抱かせなければ。であれば直接攻撃ではない、情報戦か? 個人情報……インタビュー以上のことは私も何も知らないしな……もし何か吐かせようと捕まえて使える情報一切持ってなくて解放されたとかだったらそれはそれで複雑……。

「焦凍、のおかゆ…… なんだ、起きてたの
「お姉ちゃん」

 控えめなノックと共に入ってきた姉と、その手にある小さな土鍋に薄らと状況を理解する。
 早退は早退でも寝すぎて怒られただけとか言いにくい。曖昧に笑いながらそれを受け取るべく布団を出ようとするけれど、私よりも焦凍の方が早かった。

「さんきゅ、姉さん。あとは俺がやる」
「何をやるの」
「俺が食わせる」
「自分で食えるわ」

 なに言ってんだこいつ。お盆を奪い取り、そもそも別に体調悪くないからとだけ言って座る。むすっとした顔と嬉しそうな顔に見つめられ、微妙に居心地が悪い。

「無理すんな」
「してない」
「姉さん」
「お姉ちゃん!」

 明らかな『姉さんも言ってやってくれ』の音程に、こいつどうにかしてくれよ! の気持ちを込めて私も言う。お姉ちゃんはとても楽しそうにきゃらきゃら笑って、焦凍もここでごはん食べればいいじゃない、と助け船でもなんでもないことを言った。

「……そうする。持ってくる」
「お姉ちゃんっ!」
「まあまあ。心配してたのよ、すごく」

 言うが早いか部屋を出ていった焦凍の背中を確認してから、そっと顔を寄せて囁く。がね、早退したって学校で聞いたらしくて。すごく早く帰ってきてたのよ、私より先にいたんだから。部屋の前でずっとウロウロしててね。そう、続ける顔が本当にうれしそうで、なにも言えなくなっていく。

「……昔を思い出しちゃった。あんたたち双子のどっちかが体調を崩すといつも片方が部屋の前でウロウロしてて、感染るって言ってるのに、お父さんやお母さんがいなくなるとすぐ隣に行っちゃって」
「……」
「…………ほんと、焦凍、昔みたい」

 細められた優しい目の下に、少し水の膜が張っている。それを見た瞬間、ぎゅっとどこか柔らかい場所を握られた気がした。
 お姉ちゃん。お姉ちゃん。……私も日中、おんなじことを思い出してたよ、お姉ちゃん。だけどお姉ちゃん、どっちかって話じゃないの。だって私は、無個性の私は、個性をうまく扱えなくて暴走させたことなんか無いから。風邪もあんまりひかなかった。……お姉ちゃん。

「取ってきた」
「はいはい、食べ終わったらお皿持ってきてね。のぶんも」
「わかった」
「……、」

 もう――なにも、見ていられなくて、湯気を立てるおかゆを口に運ぶ。お姉ちゃんは料理が上手だ。繊細で丁寧で、手順がきちんとしている。経験値。いつも美味しい。だけど今、史上最高に味がしない。

「……」
「……」

 食べながら視線を向けてくる弟に、食欲がどんどん削られていく。味がしないし押し込む元気もない。

(……まあ、そうだよなあ、円満な家庭っていうのは『そういうこと』なんだよな……)

 お姉ちゃんはそれを望んでこの極寒の轟家に残り、プライベートをごっそり削って尽くしてきた人だ。望むようにしてあげたい。
 ていうか焦凍が私に構ってきているのはなんでだ、お前私の存在隠してたんじゃないのかよ……。体育祭前までと態度が違いすぎてどうしていいのかわかんないんですけど……。仲直りというかコミュニケーションの復活はいいとしても急にこんなべったりしてくる必要ないだろ、なんだよ『俺が食わせる』って。あーんするって意味かよ幾つだと思ってんだ。
 口に出せない文句を飲み込みつつ、考えなきゃいけなさそうなことについて考える気力がなくなっているのを自覚する。いや、もしもあのバーテンダーさんがヴィランか何かで、私が対エンデヴァーや対焦凍のために利用されたり何なりしたらまずいなと思って、考えなきゃなあと思ったんだけど、さあ。なんかもう面倒になってきたな。利用されたらされたでよくない? 頑張れよ戦闘力はナンバーワンなんだろエンデヴァー? 焦凍も両方使えるようになったっぽいし私一人程度のハンデどうとでもなるよね? 別によくない??

(むしろ娘を一人失ったことで雨降って地固まる的な、なんかそういう効果があるんじゃない? ……それでよくない?)

 そしたら私もなんか面倒な色々をやらなくてよくなるし、ヴィランの方々も頑張ってだめなら諦めもつくだろうし、ヒーロー側の方々も言い訳が立つし、轟家からは無個性が消えるし。四方八方にウィンウィンってやつでは?
 我ながらその考えを、自暴自棄だなとは思ったけれど。でもじゃあ、他にどう考えればいいのかなんて――なにも思いつかない。
 あまり手の進まない私に、やっぱり俺が食わせる、という提案には『いいから』とだけ返した。



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2019.12.05