恋人、という関係になって、初めてのクリスマスだ。イベントごとに熱心な人だとは思わないけれど、なにかしたいとお願いすれば聞いてはくれると思う。クリスマス、誕生日、バレンタインやホワイトデー、好きな人と四季を味わうためのひとつひとつを、残さず拾い上げたいという気持ちを、理解はしなくてもきっと汲んではくれると思う。ので、付き合ってくれる花宮さんのためにも、私もできるだけ負担にならないような楽しみ方をしていきたい。未だお勉強デートの習慣が続いているのは、教えてくれるつもりでいるのと同じくらい、単純に忙しいからだ。そりゃそうだ。この時期の高校バスケはクリスマスどころではない。大ちゃんやさつきを見ていればわかる。
 だから、負担にならないように、ただちょっとしたプレゼントを受け取ってほしい。
 できれば素敵なものがいい。日々使ってもらえるようなものがいい。気に入ってほしい、似合ってほしい。ちょっと自分の印象を残したい、ふと私を思い出すきっかけになってくれたらいい。

(手編みマフラー…… この前すっごい手触りのいいカシミア巻いてた、無理…… 手作りお菓子…… そもそもお菓子を食べる人ではない…… 苦いチョコ…… クリスマスプレゼントって感じではない…… タオル…… 差し入れじゃないんだから……)

 びっくりさせたい、喜ばせたい、できればいいカッコしたい。個人的には、感心されたい、という欲求もあるわけで。
 見るたび私を思い出してくれるような、っていうのは無理にしても、存在感をアピールしていきたい。どこかに絶対いる花宮さんに片想い中の女子にも、彼女いるんですよと牽制しておきたい!

「というわけで、なんか気の利いた、かつ花宮さんの好みそうな、使ってくれそうな、彼女いるっぽいプレゼントってないですかね?」
『ラブホでも行きゃいいじゃん』
「霧崎第一そんなことしか言わない!!」

 思わず大声が出た。と同時に、階下で玄関の扉が開く音がする。ただいまあ、寒い~。さつきの声と、ばたばた続く足音。こんな時間まで練習だったのか、と隣の家に目を向けてみたけれど、大ちゃんの部屋にはまだ明かりはついていない。

『あいつらにも聞いたの? なんて返ってきた?』
「似たようなことですよ」

 こっちは真面目に話してるんですよ。ちょっと怒った声で言うと、俺だってマジメに話してるしい、と明らかなゲーム効果音と共に返ってきた。絶対真面目には話してくれていない。おかしいな、チームメイトにして同じ学校、休日にも会っているらしい親しい友人関係。聞く相手は間違えていないはずなのに、大ちゃんと同じような返事しか返ってきていない。
 ここ数日、番号を知っている面々に片っ端から聞いてみているものの、『小物とかでいいんじゃねえの』『首にリボンつけて会いに行ったら?』『エロ自撮りならこのアングルがおすすめだ』『ラブホでも行け』だ。ひどい。誰がどれとは言わないけどひどい。大ちゃんに至っては心底蔑んだ一瞥で『知るか』からの『猫耳かサンタ帽でいいんじゃねえの』だ。マイちゃんの写真集から視線を逸らさずだったので、たぶん見たページをそのまま言ってた。

「もっとこう、こう……彼女っぽい……自慢の彼女になれるような……もっと好きになってもらえるような……可愛く思ってもらえるような……」
『どんどんハードル上がってっけど大丈夫?』

 ちゃーららっちゃっちゃっちゃっちゃー。クリア音と思わしきメロディを最後にゲームっぽい効果音が途絶える。

『ていうかラブホは嫌なわけ?』

 効果音なしで原さんの声を聞くのは初めてかもしれない。片手間じゃなく話すの珍しいですね、と言ってみると『はぐらかさねーでくださあい』と返ってきた。はぐらかす、つもりではないけれど、男子とも女子ともそんな話をしたことがないので無性に恥ずかしい。自室のベッドの上、意味もなく姿勢を正してそわそわしてしまう。

「嫌、とかじゃ、なくてですね…… こう、なんていうか、クリスマスプレゼントなので、もうちょっとそれっぽいものを」
『すげークリスマスっぽいじゃん。毎年その日はラブホいっぱいなんでしょ、予約しときましたとかカッコよくね?』
「カッコいいの定義が違いすぎる」

 いやまあ言ってることはわかりますけど。クリスマスらしいって言えばらしいのかもしれないけれども。
 ここで乗って話をすれば後々不利になるのは私なので、ていうか花宮さんも原さんとそういう話をするかどうかは不明なので黙っておくべき……。

「……」

 ラブホ。エロ自撮り。首とか頭にリボン、猫耳、サンタ帽。彼らの言っていることは意味的にはまあまあ共通していて、早い話が『私がプレゼントです! でいいじゃん』だ。
 進学校の生徒だというのに出てくる発言が大ちゃんと一緒。悲しい。

『結局オトコなんてそんなもんよ』
「……心を読んだようなことを言わないでください……」

 言い訳じゃないけど、嫌だってわけじゃない。イベントにかこつけて貰ってもらうっていうのはちょっと考えるけど、きっかけがないと動けないっていう話もわかる。だけど、そうじゃなくて。それだけじゃなくて。いつかはそういうことをするんだって、そしてその相手は花宮さんしか嫌だって、思ってはいる、けれど。

「……一回限りだし、他の誰も知らないことじゃないですか、そういうのって」
『うん? どゆこと?』

 私と花宮さんの間だけで行われること、お互いだけが知っていること。それ自体はすごくいいけど、それだけじゃ足りない。
 私の努力には限界がある。こんなことは言いたくないけれど。私が、花宮さんに好きでいてもらうためにできる努力には、限界がある。どんなに頑張っても追いつけない瞬間っていうのは絶対にある。それを、よく知っている。

「……牽制したいんですよ、私は」

 自分を磨くとか好きでいてもらえるよう努力するとかは大前提の話だ。その大前提を、たとえ満点まで頑張ったところで、どうしようもない一瞬はある。
 私が彼女だって言いたい。
 花宮さんに片想いしてる女子も、隙あらば狙ってる女子も、絶対絶対いるはずなので。クリスマスにかこつけて告白しようって子もいるかもしれない。花宮さんが選ぶなら私に出来ることはないけど、でも、花宮さんが気付かない範囲なら、私が動きたい。こっそり片想いしている子がいるなら、花宮さんが気付かないうちに、その恋を殺してしまいたい。

「ぜんぶ、わたしの、花宮さんなので」
『…………詳しく』
「……いえ……自分でもどうかとは思うんですけど……ちょっと止められないっていうか……」

 自分をクズだ性格悪い皮肉屋だとは思ってはいたけれど、ここまで嫉妬深いとは思わなかった。
 ぽろっと零れた台詞に自分でもちょっと驚いて若干引いたのだけれど、原さんはなんだか楽しそうで、その声に笑みが混じっているのがわかる。霧崎第一の皆さんはこういうところが似ているというか、共通しているというか。大ちゃんに知られたら怒られるか説教されるかドン引きされそうなところを、楽しげな笑みで『それで?』と先を促してくる。自分でもわかるくらい醜い気持ちを、度の過ぎた執着を、面白そうに見守っている。

「……悪い虫つけたくないっていうか……」
『む! し! わるいむし!!! ぶっは、アッハッハッハ』
「笑わないでくださいよ本音百パーセントですよ!」
『だから面白ェんじゃん! ギャッハー悪い虫って! むしろアイツが悪い虫じゃん蟲毒っしょ!』
「それが花宮さんのいいところなんですよ!」
『否定もしねえ!! ヒー』

 遠慮のないゲラゲラ笑いがやたら大音量で響いてくる。言うんじゃなかった。笑い飛ばしてくれるだけいいのかもしれないけれど言うんじゃなかった。頬が熱い。鏡は見ていないけれど確実に真っ赤になっているであろう顔を両手で挟んで熱を逃がしていると、『ヘンなとこ自信ないよねえ』と未だ笑いやまない様子の声が続く。

『悪い虫がついたとこで、そーそー手に負える男じゃねーと思うよォ』
「……私みたいなのが絶対いるんですよ! いっぱい!」
『だとしても花宮が好きんなって付き合ってんのは一人じゃん。アイツ選り好み激しいしさァ、……っと』
「? 原さん?」

 何か、言ったらまずいことを口走りそうになった。そんな雰囲気がひっかかって名前を呼ぶものの、いやあ、と間延びした返事はもう答える気がなさそうだ。
 指の背で頬に触れる。まだ熱い。

『コレゆーと花宮に怒られんだったわ。なんでもなァい』
「そこまで言ってなんでもないとは」
『俺もアイツ怒らせたくないんだわ』

 よく言う、と、気持ちはわかる、が同時に湧いて黙り込む。霧崎第一のじゃれ合いは時折、いや割としょっちゅう、度を越しているように見えるけれど、ギリギリの線で本気では怒らせないでいる。その綱渡りを楽しんでいるように見える。原さんは特にだ。

「……だけどそれを言ってどうして怒られるっていうんですか」
『花宮すげえカッコつけだからねえ。彼女ちゃん、には特に』
「…………」
『ニヤけた?』
「てないです!」

 嘘だ。ちょっと浮かれた。未だに嬉しい。……花宮さんの彼女でいられていることもそうだけど、花宮さんの友達に、『花宮の彼女』という扱いを受けていることが。

「……原さん」
『んん?』
「あの、……ありがとうございます、いつも」
『…… んん?』
「いえ、皆さんが、正直めちゃくちゃ面白がってるのがメインってことは知ってるんですけど、……いつも相談に乗っていただいているので……その」

 クリスマスプレゼント、誕生日、バレンタイン、他諸々。好きな人と四季を味わうためのひとつひとつは、恋人同士の間でだけ成り立っているわけではない。こうやって巻き込まれてくれる人や、役立つ役立たないはともかく意見を言ってくれる人や、――そういう意味合いだけでもなく。私はたぶん、私の狂気を笑い飛ばしてくれる霧崎第一の面々に、少なからず救われている。

「……花宮さんと私が、いつもお世話になっております」
『アッハ、いつもお世話してまあす。お礼はエロ自撮りでいーよ』
「やだよ」
『アッハッハ! たまに敬語抜けんのウケる! そーゆーときイイ声してるよねえ桃井ちゃん!』

 再度げらげら笑いだした原さんに、私もちょっと笑ってしまう。言うんじゃなかったかな、とも思うけど、言ってよかった、とも思う。
 もう少し話したかったけど、そろそろ切った方がいいかな。というタイミングで、やたら元気な声と一緒にノックの音がする。さつきの声だ。

ー! ごはんー!」
『夕飯?』
「みたいです。すみません、お時間いただきまして」
『どォいたしましてぇ。じゃあ、』
「遅ェよなにしてん、……電話中か」
「大ちゃん。え、今日うちで食べる日?」
「おう。先食うぞ」
「待って待って、行くってば。じゃあ原さん、すみませんでした。また今度」
『ん……うん……頑張って』
「? はい、どうも」

 頑張ってって、……あ、結局クリスマスプレゼント決まってない。通話を切ったと同時に思いついたものの、遠慮しているのか部屋には入ってこないけれどドアの前で立っているさつきと大ちゃんがわあわあ騒ぐのでスマホを置いて部屋を出る。誰と電話してたのー? 友達。夕飯なに? 鶏肉! そんな話をしているうちに、そして未だ決まらないプレゼントに頭を悩ませているうちに、あの妙な間については考えなくなっていった。


「……」
「……」
「……」
「……」

 一方、霧崎第一の更衣室は沈黙に満ちていた。
 先程まで揃ってバカ笑いしていたとは思えないほどの静寂が、衣擦れの音さえ躊躇わせる。ていうか相手が幼馴染っつっても自分の部屋に入れちゃダメでしょ男をさあ。あの子けっこう迂闊よね。たぶん花宮も入ったことねえんでしょその部屋。この静寂の元、黙り込んでいるキャプテン様の顔を見れば答えは解るのだろうが、視線を上げる気になれない。ていうか俺らお前の彼女ちゃんの話し相手してただけなんですけどなんでこんな……なんでこんな針の筵に……。電話かかってきたとき面白がってスピーカーにしたのがよくなかったのか。いや面白がってただけじゃねえし、二人で話すと後々花宮にバレたときが厄介なのもだいぶあるし。俺わるくねえし。
 と、声に出さない言い訳を繰り広げつつ、沈黙に飽きて顔を上げる。

「見るんじゃなかった」
「なんて?」
「いや……」

 お前さっきまで上機嫌だったじゃんよ……。と、言わない程度の理性は残っている。
 原が発言したことで何かの区切りとしたのか、背後では身動きもしなかった部員たちがこれまでになく迅速かつ静かに身支度を進めている。残された原は着替える余裕もなくじっと座っていた。完全なる貧乏くじ。真正面に立っているのは胡散臭さ満点のにこにこ笑顔、優等生モード時の花宮真だ。近寄りたくない。

「……あー。つうか心配することないじゃん、ベッタ惚れじゃん。なんだ悪い虫って。花宮相手に悪い虫って」
「っふ」
「っ……」

 耐えきれず噴出した気配に、とりあえず少なくとも二人巻き込めたことを確信する。
 ていうか、悪い虫って。自分でもちょっと思い出してしまってウケる。花宮も思い出し笑いをしてるけど、それが『悪い虫』発言についてでないことは、なんとなくわかる。マジで趣味と性質の悪い男なので。

(コイツ本当に……つくづく性格が悪いな……)

 ぜんぶ、わたしの、花宮さんなので。
 あの子は時折ああいう声を出す。そういうとき、決まって特徴的な瞳をしている。漫画なんかで見る、真っ黒で、グルグルに渦巻いているような印象の。あれってわりと的を得た演出だったんだァ、と思ったのでよく覚えている。一目見てちょっとやべえなこの子、と思えるような状態になる、……そしてそういう時、こいつはめちゃくちゃ幸せそうに笑う。甘ったるく蕩けそうな、そこだけ見れば慈愛とかいう単語を連想してしまいそうな表情をする。自分のために、いっぱいいっぱいになっている女の子を見て。

「……前、めっずらしくノロケてた時あったじゃん、花宮」

 スマホに落ちていた視線が向けられる。背後で高速着替え荷造りを繰り広げていた連中が、耳を向けてきたのがわかる。

「なんだっけ、あの――おねーちゃんが連絡してきてどうこうってやつ」
「……ああ」

 ピンクの美少女。キセキとか呼ばれる連中に混じる、マネージャーにしてはそこそこの有名人。
 妹には内緒で、なんて寄越してきた連絡は普通に考えれば恋人同士に亀裂を入れようとしていて、……アイツら的には悪気がねえの? 本人としては妹を思いやる姉の善意なの? マジで言ってる? バカ?
 まあでも使えそうなもんが釣れたなら結構な話じゃん。運転はできるっしょ。進展あったら教えてよ、程度に済ませていた話は数日後、上機嫌な花宮によって立ち消えになった。

 ――あいつに任せることにした。

 その、悪い顔。
 霧崎第一の心が一つになった。悪童出たわ。
 悪童って結構マジでいい仇名だよね、こいつ悪意って言うほどの悪意で動いてねえもん。単純な好奇心とかイタズラ心に近い。悪気はあるんだろうけど。純度百パーセントの邪気が逆に無邪気。子供が虫の羽や足をもぐのと同じノリでラフプレーを仕掛ける、最悪のタイミングで最悪の言葉を選ぶ、薄氷を踏み壊す。一度ぶっ壊れて再開しようとしているらしい姉妹関係が、別物になっていくのを興味深げに眺めている。

「あの子、このまんまだと別物になっちゃいそうじゃねえ?」

 お前のせいでさ。
 とは、言わなくとも通じたと思う。実際あの子は、良くか悪くかは知らないけど随分変わった。きれいになったし、可愛くなった。遠慮せず物を言うようになったし、残酷になった。『花宮の隣にいるのにふさわしい女の子』の姿を追っているように見える。自分自身を、作り替えていくみたいに。俺達だって、あのグルグル真っ黒瞳を、抑えるどころか増長させている。だって面白いので。楽しいことになりそうなので。その先行きに興味があるので。

「そんぐれー自覚してんだろ、あいつも」
「……そうおォ?」
「そうだよ。わかってて、こっち来てんだよ、あいつは」

 バカだからな。と、笑った顔の、甘ったるいこと!
 自分で引き出したとはいえ、思った以上のノロケに付き合っていられず振り返って着替え始める。鏡は無いけれど、花宮以外の全員が同じ表情をしているように思った。すなわち、辟易。

 結局クリスマスプレゼントがどうなったのかはわからないまま、二十四日を迎えた。
 あれ以降も連絡はしてみたけど同じようなことで悩んでたり迷ってたりで、まあたぶん無難な選択になったのだろう。そうやってぐだぐだ悩み続けてる姿でアイツ充分喜んでるよ、って教えてあげたいけど、さすがに自分の行動が筒抜けだなんて知ったら恥ずかしいだろう。黙っておいてあげよう。俺めっちゃ優しい。

(んー。おもしろエロ話を期待してたけど、うまくいかねーなー)

 花宮にエロ自撮り送ってくれたりしねえかなー。したらそれを勝手にコピーしたい。いやぶっ殺されるな。個人的に楽しむんでもダメかな。そもそもコピーできる場所にある気がしねえわ、花宮そういうとこ抜かりない。……いや、そこを諦めないのが、俺じゃん……? この霧崎第一に新しく爽やかな風を呼ぶのが、革命を起こすのが、俺じゃん……?

「諦めたらそこで試合終了ってやつじゃん……?」
「それ俺らだけは使っちゃいけない台詞だぞ」
「漫画の台詞に制限とかあんの」
「道徳的に」
「多分それも禁止ワードになるけど」
「マジか、厳しいな条件が」
「はー、しかし結局どーしたんだろプレゼント。エロ自撮り送ってくんねーかなー」

 部活後、特にこれからの予定もないのでダラダラ喋りつつ着替える。今日は鍵も日誌も俺らなので何時まで残ってたっていい。
 幼馴染の乱入は、釘差しとくって言ってたからたぶん大丈夫だろう。大丈夫じゃないだろうけど俺らは大丈夫だろう。自覚ねーのが悪いから頑張ってね桃井ちゃん。君の惚れてる男はマジで厄介だよ。グリル厄介。責任もって平らげてください。

「花宮行ったか?」
「もう行っ、……どしたん古橋、珍しい」

 俺らもカノジョほしーなー、なんて話になったところで、顔を腫らした古橋が入ってくる。口を切ったらしく多少もごついた声で『いや』『つい好奇心に負けて』と聞こえた。ってことは花宮か。え、マジで珍しいな、いつも殴られるとこまでいかないのに。

「何々どしたん、どーやってそんな怒らせたん」
「この後デートだろう」
「うんうん」
「『今日の桃井の下着は俺がオススメしたやつなので期待してくれ』と」
「………… 勧めたのかよ?」
「そんなわけないだろう。殺される」
「今のお前が言うと説得力あるわあ」
「ノールック裏拳だった」
「あいつ桃井ちゃん絡むとバカになんない?」
「いや、今回一番のバカは古橋だろ」
「……ノールック裏拳後、振り返りもせずに鞄掴んで走って行った」

 痛そうな口元が、珍しいほど明確な笑みに歪む。

「原の気持ちがわかった」
「……心外なんですけどー! いっくら俺でももうちょい上手くやるわ!」
「いや、面白かっ、ふ」
「ていうか古橋こっち、こっち向いて、はいチーズ」
「何なにうるさいんだけど」
「今頃ひん剥かれてたりして」

 男子が集まってバカなことやって人からかって下品な話題でゲラゲラ笑って、マジで男子高校生とかそんなもんだよ桃井ちゃん。キミが一生懸命しがみつこうとしてるそいつも、似たようなもんですよ。
 思い描いて、口元が歪む。笑ってしまう、どうしても。

「会って早々ひん剥いてひっぱたかれてフラれたりしねーかなぁ花宮!」
「うっは! 見たい!」
「見たいが望めないだろうな、……今度頼むか、桃井に」
「いや、さすがに付き合ってくんないでしょ。妥協してくれそうな案を考えよう」
「ろくでもねえな!」

 花宮に惚れて惚れられたのが運の尽きなので、俺らにドン引きしない性格しちゃってるのも重大ポイントなので、諦めて長く付き合おうね桃井ちゃん。
 花宮に飽きたら俺んとこ来てもいーよ。と送ると、既読と同時に『死ね』と返ってきたので多分アプリ全部筒抜けだなコレ。はーかわいそ。メリクリ。俺らからのプレゼントは、必死こいて駆け寄ってくる彼氏様ってことでひとつ。お礼はエロ自撮りでいーよ。って送ったら古橋の二の舞なので、今日の所はおしまいにして、ふたりっきりにしてあげようね。



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2020.12.23